Yaqumoと富士通、量子コンピュータ実用化へ向け中性原子型での共同検証を開始

テクノロジー

共同研究の背景と目的

量子コンピュータの技術は急速に進化しており、その実用化に向けては様々なハードウェア方式が競い合って開発されています。特に、中性原子型量子コンピュータは、量子ビット間の「全結合性」を実現しやすいという特徴を持っています。これにより、超伝導型などの他の方式では難しい計算手法の可能性が広がり、量子エラー訂正の効率的な実行なども期待されています。

この特性を最大限に活用するためには、それを支えるソフトウェアやアーキテクチャ技術の研究開発が不可欠です。Yaqumoと富士通は、それぞれの強みを組み合わせることで、この分野の発展を加速させようとしています。

富士通の先進技術

富士通はこれまで、超伝導型量子コンピュータを主な対象として、実用的な量子コンピューティング技術の実現に向けた幅広い研究開発を進めてきました。その中核をなすのが、以下の2つの技術です。

  • STARアーキテクチャ:Early-FTQC時代(誤り耐性量子計算が十分に実現できないと考えられている時代)を見据えた量子計算アーキテクチャで、「Space-Time efficient Analog Rotation quantum computing architecture」の略です。量子計算に必要な量子ビット数を大幅に削減できる可能性を持ち、量子コンピュータの実用化を早めると期待されています。

  • Open Quantum Toolchain for OPerators and USers(OQTOPUS):量子コンピュータ・クラウドサービスに必要な、実行環境の構築から運用までを網羅するオープンソースソフトウェアです。GitHubで公開されており、利用者が複数の方式の量子コンピュータを統一されたインターフェースで操作できることを目指しています。

富士通は今回、中性原子型量子コンピュータにSTARアーキテクチャを適用し、実機上での実装・検証を行うことで、誤り耐性量子計算(FTQC)への移行を見据えた研究開発を推進します。また、OQTOPUSを中性原子型に対応させることで、量子コンピュータの普及を促進する考えです。

Yaqumoが開発する中性原子型量子コンピュータ

Yaqumoは、イッテルビウム中性原子を用いた量子コンピュータのハードウェア研究開発を行うスタートアップ企業です。2027年度を目処に、量子エラー訂正機能を備えた数百量子ビットを超える規模の実機開発を目指しています。

中性原子型量子コンピュータは、レーザー冷却によって極低温状態にした中性原子を光学的にトラップし、レーザー光で操作する方式です。高いスケーラビリティと長いコヒーレンス時間という特徴を持ち、大規模な量子システムの構築に適したプラットフォームとして注目されています。

共同検証の内容と期待される成果

この共同研究では、富士通の量子ソフトウェア・アーキテクチャ技術とYaqumoが開発する中性原子型量子コンピュータを組み合わせ、実際のハードウェア上で検証を行います。

STARアーキテクチャの実機検証

STARアーキテクチャは量子ビット数の大幅な削減効果が期待されますが、その効果は量子コンピュータの方式によって異なります。今回の実機検証では、理論検討だけでは確認できない実際のハードウェアとの適合性を評価します。中性原子型量子コンピュータの特性を活かすことで、より少ない量子ビットで実用的な量子計算を実現できる可能性を探ります。これが実現すれば、量子コンピュータの実用化に必要なハードウェア規模を抑えつつ性能を向上させる新たな道筋が示されるでしょう。

Open Quantum Toolchain for OPerators and USersの中性原子型対応

中性原子型量子コンピュータと超伝導型量子コンピュータでは、装置に送る命令が異なります。そのため、命令の変換からジョブ管理、装置状態の監視・較正までを中性原子型の制御系に合わせて対応させる必要があります。

今回の共同研究では、富士通が開発しオープンソースとして公開しているOQTOPUSと、Yaqumoの中性原子型量子コンピュータとの相互接続を実現します。これにより、外部の利用者がクラウド経由で中性原子型量子コンピュータを利用できる環境が整い、方式の異なる量子コンピュータを同一のインターフェースで扱える基盤の実現を目指します。

両社のコメント

株式会社 Yaqumo CEO 中小司 和広氏のコメント

「富士通が超伝導・ダイヤモンドスピン方式を通じて蓄積したアーキテクチャ設計やクラウド基盤の知見は、私たちが進める中性原子型量子コンピュータの研究開発を力強く後押しするものと考えています。中性原子型量子コンピュータにおいて、OQTOPUSとの接続検証やSTARアーキテクチャをはじめとするEarly-FTQC時代向け技術のデモンストレーションを通じて、中性原子型の持つ可能性をさらに引き出していきたいと考えています。本共同研究を通じ、FTQCの実現に向けた研究開発を着実に前進させてまいります。」

富士通株式会社 富士通研究所 フェロー 兼 量子研究所長 佐藤 信太郎氏のコメント

「量子コンピューティングの実用化に向けては、革新的なハードウェア技術と、それを最大限に活用するアーキテクチャ・ソフトウェア技術の両輪で研究開発を進めることが重要です。今回、Yaqumoが開発する中性原子型量子コンピュータと、STARアーキテクチャおよびOQTOPUSとの連携可能性を実機レベルで検証することで効率的な量子計算方式の確立や利用環境の高度化につながることを大変期待しています。本共同研究を通じて、中性原子型量子コンピュータの特性を活かした新たな知見を獲得し、FTQCやEarly-FTQC時代に向けた量子コンピューティング技術の発展に貢献してまいります。」

関連リンク

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

注釈

  • Early-FTQC時代:数万程度の量子ビットしか実装できておらず、誤り耐性量子計算が十分に実現できないと考えられている時代。FTQC(Fault-Tolerant Quantum Computer、誤り耐性量子コンピュータ)は、量子コンピュータの計算中に発生するエラーを訂正する機能を備えた量子コンピュータ。

  • STARアーキテクチャ:”Space-Time efficient Analog Rotation quantum computing architecture”の略で、高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ。量子コンピュータの実現に不可欠な任意の角度の位相回転に必要な量子ビット数を大幅に低減することで、現行コンピュータの計算性能を超える量子コンピュータの実用化を早めると期待される量子計算アーキテクチャ。

  • Open Quantum Toolchain for OPerators and Users:量子コンピュータ・クラウドサービスに必要となる、実行環境構築から運用向けまでを網羅する基本ソフトウェアをオープンソース化しGitHubで公開。

  • 中性原子型量子コンピュータ:レーザー冷却によって極低温状態にした中性原子を光学的にトラップし、レーザー光で操作する量子コンピュータの方式。高いスケーラビリティと長いコヒーレンス時間を特徴とし、大規模な量子システムの構築に適したプラットフォームとして注目されている。

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