日本のジビエ廃棄問題に挑むフレンチレストラン「AYTNmR」の哲学と持続可能な食への貢献

グルメ

大阪・天満橋のフレンチレストラン「AYTNmR」が日本のジビエ活用に挑戦

大阪の天満橋にオープンしたフレンチレストラン「AYTNmR(アイテノマ)」は、オーナーシェフ藤崎氏の哲学が息づく、日本らしさを感じる料理を提供しています。素材の本質を追求し、普遍的な日本の食を大切にする同店は、日本のジビエが抱える課題にも積極的に向き合っています。

夜の建物の外壁が暖かなスポットライトで照らされています。壁には横長のスリット窓があり、中に植物が見えます。一部は石積みで装飾され、モダンで落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

AYTNmRの公式サイトはこちらです: AYTNmR 公式サイト

日本のジビエを取り巻く厳しい現状

現在、日本で捕獲される害獣対象の動物のうち、約9割が処分されているという現状があります。農林水産省のデータによると、年間約130万頭が捕獲され、ジビエとしての利用率は2016年の約7%から約13%へと微増しているものの、依然として半数以上が廃棄されています。

この問題の背景には、日本特有の様々な要因が存在します。

処理施設への搬入の困難さ

捕獲された動物は、止め刺しから概ね1〜2時間以内に処理施設へ搬入し、解体する必要があります。しかし、山奥で捕獲された場合、適切な運搬手段や時間の確保が難しく、やむなく廃棄せざるを得ないケースが多く発生しています。

清潔な食肉加工施設で、保護具を着用した作業員が動物の死骸を解体または処理している。マスク、ヘアキャップ、ヘッドライト、青いエプロン、手袋を着用し、衛生的な環境で肉の加工を行う様子が写されている。
マスク、ヘアキャップ、ヘッドライト、青い手袋を着用した作業員が、食肉処理施設で大きな生肉の塊を丁寧に加工している様子。衛生的な環境で専門的な作業が行われていることを示唆している。

ハンターの高齢化と人手不足

鹿や猪といった大型の獲物を山から運び出す作業は重労働であり、ハンターの高齢化と人手不足が深刻化する中で、埋設処分されるケースが増加しています。これは、農家や漁師といった他の一次産業でも共通して見られる課題のひとつです。

採算性の問題

一頭から得られる可食部は全体の約4割程度とされています。銃弾や処理施設の維持費、検査費用といったコストを考慮すると、ジビエの活用は経済的に厳しい状況にあります。多くの関係者が「好きだから続けられる仕事」として、この現状を支えている側面があります。

ヨーロッパを「手本」にできない日本の事情

ジビエという言葉がフランス語であることからもわかるように、ヨーロッパでは鹿や猪は高級食材として広く流通しています。しかし、日本がヨーロッパの仕組みをそのまま模倣することが難しいのには、いくつかの理由があります。

狩猟文化の違い

ヨーロッパでは狩猟が古くから「紳士の嗜み」として発展し、獲物を美味しくいただく文化が根付いています。一方、日本では肉食禁止の歴史が長く、狩猟は「農作物を守る」という側面が強く、食文化としての発展が限定的でした。

捕獲方法の違い

ヨーロッパでは原則、銃による捕獲が行われ、一発で仕留めることで動物にストレスを与えることなく、肉質の良い食肉として処理されます。これに対し、日本では地形の複雑さや安全性から約6割が罠による捕獲です。罠にかかった動物は暴れることが多く、過度なストレスにより肉質が劣化してしまう傾向があります。

物流の仕組み

ヨーロッパでは、国家資格を持つハンターが一時処理を行い、検疫を通れば直接市場やレストランに販売できる仕組みがあります。しかし日本では、厚生労働省のガイドラインに基づき、専門の食肉処理施設への搬入が義務付けられています。この搬入自体が高いハードルとなっているのが現状です。

日本の複雑な地形や独自のルールを考慮すると、ヨーロッパの仕組みをそのまま導入することは現実的ではありません。現在は、ペットフードや革製品としての活用など、日本に適した普及方法が模索されています。

無駄をなくすための新たな取り組み

処理施設に搬入できたとしても、次に大きな問題となるのが「販売先の確保」です。食肉処理施設が直接販売を行うことは稀であり、道の駅や地元の飲食店への営業活動といった販売努力が必要となります。

このような中、AYTNmRのオーナーシェフ藤崎氏の友人である菅原氏が、ジビエ専門の仲介業者として興味深い取り組みを行っています。これは、獲物を捕獲する人、加工する人、そして商品を販売する人を完全に分業することで、効率的な流通を目指すものです。

菅原氏は現在、福井県内の複数の食肉処理施設と連携し、加工されたジビエを全国のレストランに届ける橋渡し役を担っています。この取り組みは、レストランでジビエの美味しさを広め、一般消費者への需要喚起につなげることを目的としています。

この流通の仕組みは、レストラン側にも大きなメリットをもたらします。それは、止め刺しから手元に届くまでの全ての情報が明確であることです。菅原氏を通じて、「誰がいつ捕獲し」「何時頃に止め刺しを行い」「何日間熟成させたか」といった詳細な情報が提供され、食肉の品質が保証されます。AYTNmRでは、主に敦賀市にある「つぬがジビエ」の宮迫氏からジビエを仕入れており、その作業場の清潔さや宮迫氏の人柄が肉質の綺麗さに直結していると感じているそうです。

AYTNmRが目指すジビエ料理の未来

AYTNmRでは、通年でコース料理の中に日本のジビエを取り入れています。これは、一軒のレストランの取り組みで普及率が劇的に向上するわけではないものの、国内の食材のみを使用するという同店の基本方針から、日本の季節ごとに変化する野生の肉質を通年で活用することが自然な流れであると考えているためです。

炭火で焼かれている大きな肉の塊が写っています。網の上でじっくりと調理されており、炎が肉の下から見え、食欲をそそる様子です。アウトドアでのバーベキューやキャンプ料理を思わせる一枚です。

オーナーシェフの藤崎氏は、日本のジビエというジャンルにおいて、料理人としての大きな責任を感じていると述べています。ハンター、処理施設、仲介業者と繋いできたバトンを、料理の質で台無しにしてはならないという強い思いがあるからです。

ジビエは需要と供給のバランスが悪く、害獣駆除の対象でありながらも利用が進まない特殊な食材です。しかし、藤崎氏はこの状況を料理人としての成長の機会と捉えています。「頭を使って料理する」という師の言葉を胸に、画一的なレシピに頼らず、その時々の旬の食材とジビエを組み合わせ、新たな皿の仕立てを考えることで、自身の料理の幅を広げています。

AYTNmRはジビエ専門のレストランではありませんが、美味しいものをゆっくりと楽しみたいと訪れる人々との会話の中で、少しでもジビエの話題が上がることを願っています。どの食材であっても「美味しい」と感じてもらえる料理を提供することで、その食材に価値が生まれるという信念のもと、AYTNmRは挑戦を続けています。

白い皿に盛り付けられた、鴨肉またはジビエのローストと、焼き野菜、特徴的な模様のラビオリ、クリーミーなソースが美しいフレンチ料理。高級感のあるディナーの一皿です。

レストラン情報

  • 店名: AYTNmR(アイテノマ)

  • 電話: 06-7777-7532

  • 住所: 〒540-0035 大阪府大阪市中央区釣鐘町1丁目4-3

  • アクセス: 大阪メトロ谷町線 天満橋駅徒歩3分

  • 営業時間: ランチ 12:00~15:00、ディナー 18:00~23:00

  • 定休日: 不定休(Instagramで確認)

  • 座席数: カウンター 4席、テーブル 4名掛け2卓、個室 10席

オーナーシェフ 藤崎直輝氏について

1995年3月8日生まれ。鹿児島県鹿屋市出身。市内の調理学校卒業後、大阪のホテルに就職。国内外のレストランでの経験を経て独立に至りました。日本の一次産業や飲食従事者の育成にも関心を持ち、日本各地の生産者や調理学校との交流を大切にしています。

コメント