日立、シリコン量子コンピュータ実用化へ基盤技術を開発
株式会社日立製作所は、社会や産業の持続的な成長を支える次世代の計算基盤として期待されるシリコン量子コンピュータの実用化に向け、その大規模化を支える基盤技術の有効性を実証しました。
量子コンピュータは、新材料開発や創薬、エネルギー需給最適化など、従来の計算基盤では解決が難しい複雑な課題への対応力を高める技術として注目されています。日立は、学術実証から産業応用への展開に向けて、2027年度のクラウド公開、2028年度の100量子ビット級システム、2030年度の1,000量子ビット級システムの開発を目標としています。
日立のシリコン量子コンピュータ開発戦略に関する詳細は、以下のリンクで確認できます。
大規模化の課題とシリコン量子コンピュータの可能性
量子コンピュータの実用化には、量子ビットを大規模に集積しながら、安定して制御できる技術の確立が求められています。特に、誤り耐性型量子コンピュータの実現には、将来的に100万規模の量子ビット集積が必要とされています。
日立が研究開発を進めるシリコン量子コンピュータは、既存の半導体製造技術を活用できるため、量産化を見据えた大規模化に適した方式として期待されています。しかし、量子ビット数が増えるほど制御配線が増大し、冷却や実装の負荷が高まること、また量子ビットを使った計算を高い精度で実現することが難しいという課題がありました。これらの課題に対応するため、装置への実装やシステム運用までを見据えた基盤技術の確立が重要とされていました。
配線数増大を抑える「共有ゲート型アーキテクチャ」
日立は、大規模シリコン量子コンピュータの産業応用における配線数の増大という課題に対応するため、「共有ゲート型アーキテクチャ」を考案しました。これは、従来のコンピュータの半導体メモリで広く利用されているクロスバー構造を応用し、複数の量子ビットを共通の配線と制御用ゲートで動かすものです。
従来構造では、量子ビットごとに個別の配線とゲートが必要であったため、量子ビット数が増えるほど配線数が増大し、大規模化の障壁となっていました。これに対し、新構造では複数の量子ビットを共通の配線とゲートで制御できるため、配線数の増大を効果的に抑えることが可能になります。
imecの協力のもと、300mmウェハプロセスで4×4の16量子ビット配列構造を試作し、すべての量子ドットの形成と一部の量子ビット操作が実証されました。この成果は、量子誤り訂正を実現する将来の大規模シリコン量子コンピュータにおいて、多数の量子ビットを少ない配線で効率的に制御する技術の実用化に向けた重要な一歩となります。

量子状態の乱れを抑える「電子速度制御技術」
シリコン量子コンピュータでは、量子ビットを離して配置することで配線やノイズの課題を抑えることができます。しかし、必要なタイミングで量子ビット同士を相互作用させるためには、量子情報を持つ電子を移動させる「電子輸送(シャトリング)」技術が重要となります。
従来の電子輸送では、電子を急激に加速・減速させながら移動させる考え方が一般的でした。日立は、急な速度変化が電子の量子状態を乱し、計算エラーにつながる要因になり得ることに着目し、電子の移動速度を滑らかに変化させる「電子速度制御技術」を提案しました。この技術では、電圧信号を位相変調することにより、電子移動の加速・減速を急激ではなく徐々になるように制御します。量子物理シミュレーションの結果、この方式が電子輸送時に生じる量子状態の乱れを抑え、エラー低減につながる可能性を示しました。
日立はこれまでも量子ビットの高精度化技術に取り組んでおり、2024年にはマイクロ波位相変調技術により量子ビットの動作安定性を100倍以上向上させる成果も発表しています。
これらの成果は、将来の大規模シリコン量子コンピュータにおける高信頼な量子計算の実現に貢献するものです。

今後の展望と社会実装への貢献
今後、日立は量子ビットチップ設計、実装、クラウド運用の研究開発をさらに進め、産官学や国内外のパートナーとの連携を通じて、学術実証から産業応用への展開を加速していくとしています。具体的な目標として、2027年度のクラウド公開、2028年度の100量子ビット級システム、2030年度の1,000量子ビット級システムをめざしています。
日立は、量子コンピュータを次世代の計算基盤として実用化し、エネルギー、モビリティ、生産現場の最適化、金融リスク分析における最適化やシミュレーションの高度化を進める計画です。これにより、従来の計算基盤では対応が難しい複雑な社会課題を解決するソリューションを開発し、Lumadaとして社会に展開していくことで、産業や社会インフラの高度化と持続可能な社会の実現に貢献していくと述べています。
なお、本成果の一部は2026年8月31日から韓国・仁川で開催されるシリコン量子コンピュータ分野の国際会議SiQEW/ICOSS 2026にて発表される予定です。
日立製作所の詳細については、公式サイトをご覧ください。


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