エッジAI半導体とは
エッジAI半導体とは、ネットワークの端末機器(エッジデバイス)に直接搭載され、装置内でAI推論を実行するための半導体チップを指します。今回開発された半導体は、画像、音、振動といった多様な現場データを装置内でリアルタイムに解析できる高速処理と省電力性能が特長です。
実機データを用いた評価では、開発されたエッジ向け軽量AIモデルに対する電力効率が、従来の最先端GPUと比較して10倍以上高いことが確認されています。また、装置内で使用可能な省電力で安定した動作も確認されており、これまで専用サーバーが必要だった高度な検査や監視処理を、現場装置内で直接実行できる見通しが得られました。これにより、設置スペースや消費電力に制約のある製造現場など、さまざまな現場装置への実装が可能になります。
開発の背景と課題
製造現場、物流、ビル・エネルギーなどの産業現場では、装置から得られるデータをリアルタイムで解析し、品質の安定化、生産性向上、保全効率化に繋げることが求められています。しかし、従来のエッジAIシステムでは、消費電力や設置スペース、複数センサーデータを扱う際の処理負荷が課題となり、本格的な展開が難しい状況でした。
日立はこれまで、画像、音、振動など多様なセンサーデータを省電力でリアルタイムに解析するエッジAI技術の開発を進めてきました。この成果を具現化したのが、今回のエッジAI半導体であり、「HMAX Industry」が対象とする現場での適用が開始されます。
技術のポイント
今回のエッジAI半導体開発には、主に以下の3つの技術ポイントがあります。
1. 産業用プロダクトに組み込めるエッジ向け軽量AIモデル
産業用プロダクトへの組み込みを前提としたエッジ向け軽量AIモデルが開発されました。工場やビル設備で使われる装置は、消費電力や設置スペースに制約があるため、多くの演算量を必要とするAIを装置内に搭載することは困難でした。
この課題に対し、画像の微細な違いを捉えるCNN(Convolutional Neural Network)と、全体の傾向を理解するTransformerを組み合わせることで、装置内実装に必要な軽量性と、検査・監視といった産業用途で求められる高い推論精度を両立しています。このモデルは特定機種に依存しない設計で、検査・計測装置や産業機械での実装・評価を通じてユースケースを広げています。
2. 検査・監視処理の時間と処理負荷の削減
高精度が求められる検査・監視では、多枚数の撮像や複雑な解析処理がボトルネックとなることが多くあります。半導体検査・計測分野での実測データを用いた検証では、従来、多枚数の画像を重ねて行っていた高精度計測処理を、1枚の画像に対するAI処理で置き換えられる可能性が確認されました。

CD-SEMの原画像とAI処理後の画像を比較した図。AI処理によりノイズが除去され、より鮮明なエッジが再現されています。
これにより、撮像回数を減らしながら必要な精度を確保できる見通しが得られ、インライン検査・計測の高速化と装置負荷の低減に繋がることが確認されています。同様のコンセプトは、部品外観検査や設備状態監視など、他の検査・監視装置にも順次適用される予定です。
3. 装置内で省電力にAI処理を行える独自のエッジAI半導体の動作確認
エッジAI半導体は、実行するAIモデルに合わせて演算回路やメモリ構成を最適化することで、汎用プロセッサに比べて電力効率を高めることが可能です。今回、エッジ向け軽量AIモデルの演算に合わせて回路を設計したチップの評価が行われました。

回路基板に実装されたAIエンジン搭載のマイクロチップとその内部構造を示した図。チップは3mm×3.3mmで、AIエンジン、メモリ、16チャンネル高性能A/D変換器、擬似画像生成ブロックを含みます。
その結果、従来のGPUと比較して10倍以上高い電力効率で処理を実行できること、および産業用装置内で使用可能な電力範囲で安定動作することが確認されました。これにより、これまで専用サーバーが必要だった高度なAI処理を、製造設備、検査装置、ロボット、物流機器、ビル・エネルギー設備といった実際の現場装置に組み込んだ運用が可能となり、実装フェーズに移行しました。
今後の展望
今回開発されたエッジAI半導体は、現場での処理を高速かつ省電力で実行するキーコンポーネントとして、「HMAX Industry」が対象とする工場、物流、ビル、エネルギーなどのプロダクト群へ横断的に展開される予定です。現場データをその場で判断できる「プロダクトの知能化」を進めることで、Lumada 3.0を体現するソリューション群である「HMAX Industry」を支えるデジタルサービスとして、実装と運用の両面から拡大していくことでしょう。
関連情報
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日立製作所の詳細については、www.hitachi.com/ja-jp/ をご覧ください。
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日立ハイテクのWebサイトは、https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/ です。
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また、エッジAI技術に関する過去の研究開発情報は、Lumada 3.0の現場適用を強化するエッジAI技術を開発 – 研究開発:2025年10月14日 で確認できます。
商標注記: 記載されている会社名、製品名は、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。


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