山手線内側で中古マンション在庫が増加、都心離れと需要シフトの兆候か

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東京都で進む「在庫急増」という変化

これまで東京都心部では、価格が上昇しても需要が衰えず、特に湾岸エリアや大規模タワーマンションを中心に高値取引が継続していました。しかし、直近のデータでは、高額帯マンションの売出件数が急増し、それに伴って市場在庫も大きく積み上がり始めています。

特に、大規模タワーマンションにおける転売住戸の増加が顕著です。これまでの相場上昇局面では、「買えば値上がりする」という期待感から、投資・投機目的の取得も一定数存在しました。しかし、価格上昇が一定水準を超えたことで、利益確定売りや出口戦略を意識した売却が増加し、市場への供給量が急増しています。

本来、供給が増えても需要がそれ以上に強ければ在庫は増えません。しかし現在の東京都では、供給増加に対して需要が追いついておらず、結果として在庫が急増しています。これは、「売りたい人」に対して「買いたい人」が相対的に減少している状態であり、これまでのような売り手優位のマーケットから徐々に変化し始めていることを示しています。

売れ残り始めているのは「高単価物件」

現在在庫として滞留し始めている物件の「中身」に注目すると、主に築年数の浅い高額物件や、専有面積の広い住戸に流動性の低下が見られます。これらの物件はもともと坪単価が高く、総額も大きくなりやすい特徴があります。特に東京都心部では、ここ数年にわたり中古マンション価格が急激に上昇してきたことで、従来の実需層が購入可能だった価格帯を大きく超え始めています。

かつては「築浅」「広い」「都心立地」という条件を備えた物件は、価格が高くても比較的スムーズに成約していました。しかし現在は、住宅ローン金利の上昇や生活コスト増加の影響もあり、実需層の購入余力には徐々に限界が見え始めています。その結果、市場では「高価格帯物件ほど売却期間が長期化しやすい」という傾向が鮮明になりました。

これは単純に人気が低下したというよりも、「価格上昇のスピードが実需の許容範囲を超え始めた」と捉える方が自然でしょう。特に総額1.5億円から2億円を超えるレンジでは、購入対象者が大きく限定されるため、需給バランスの変化が在庫増加という形で表れやすくなっています。

以下の地図では、平均価格8,000万円以上のシンボリックな高価格帯マンションの在庫推移を可視化しています。

山手線 湾岸 在庫変動マップ

地図を見ると、特に高価格帯物件が集中する山手線内側や湾岸エリアにおいて、在庫増加傾向を示す青プロットが目立っています。これは、これまで市場を牽引してきた都心・湾岸のタワーマンション群において、価格上昇に対して需要が追いつきにくくなっていることを示唆しています。

一方で、都心周辺部のような、都心と比較して価格水準が相対的に抑えられているエリアでは、在庫が一定数で安定推移しているマンションも多く見られます。これは、購入予算を重視する実需層が、「都心一等地」から「都心アクセス可能な周辺住宅エリア」へと流れ始めている可能性を示しています。

つまり現在の中古マンション市場では、「どのエリアでも一律に鈍化している」のではなく、「価格が上がりすぎたエリア」と、「実需が支えられる価格帯に収まっているエリア」で、流動性に明確な差が生まれ始めている局面に入っていると言えるでしょう。

周辺3県では在庫減少が続く

一方で、埼玉県・千葉県・神奈川県の中古マンション市場を見ると、東京都とは対照的な動きが見られます。

埼玉県・千葉県・神奈川県: 中古マンション在庫推移

これらのエリアでは供給量自体は大きく増加していないにもかかわらず、市場在庫はむしろ減少傾向にあります。つまり、供給された物件が順調に市場で消化されている状態です。

また、在庫化している物件の築年数や面積帯にも大きな変化は見られません。東京都のように「高額な築浅大型住戸だけが残る」という偏りが比較的小さく、幅広い価格帯で安定的に需要が存在していることが分かります。これは実需層を中心とした堅調な住宅需要が維持されていることを示しています。

人口移動データにも表れる東京離れ

この背景として考えられるのが、人口移動の変化です。実際に人の動きが大きくなる2026年3月(前年同月比)のデータでは、埼玉県、千葉県、神奈川県は転入者の数が増加しているにもかかわらず、東京都は転入者が減少する一方で、転出者が増加しています。

埼玉県: 転入超過数と転入超過率(各年3月単月比較)

転入超過率を見ると、埼玉県、千葉県、神奈川県はいずれもプラスであり、埼玉県に関しては前年同月比で約30%増と、コロナ禍以降の観測で初めての増加を記録しました。

東京都 : 転入超過数と転入超過率(各年3月単月比較)

東京都においては約9%減となり、これもコロナ禍以降の観測で初めての減少です。2026年3月の集計では、東京都で特に「出ていく人」の増加が著しく、これは非常に重要な変化と言えるでしょう。

これまで東京都心部の不動産価格を支えてきたのは、継続的な人口流入と高い住宅需要でした。しかし、その前提条件に変化が生じ始めている可能性があります。

高騰する東京都心から周辺県へ需要シフト

その大きな要因の一つとして考えられるのが、東京都の中古マンション価格の急騰です。価格上昇によって住宅取得のハードルが大幅に高まり、これまで東京都内で購入を検討していた実需層が、より価格負担の小さい埼玉県・千葉県・神奈川県へ流れている可能性があります。

特に近年は、リモートワークの普及や働き方の多様化によって、「都心に住む必要性」が以前ほど絶対的ではなくなっています。その結果、居住空間の広さや生活コストのバランスを重視し、周辺県を選択する動きが強まっていると考えられます。

今後の市場は「価格」より「需要の質」が重要に

中古マンション市場は、価格だけを見ると依然として高値圏にあります。しかし、在庫の積み上がり方や人口移動の変化を重ね合わせて見ると、市場内部ではすでに需要構造の変化が始まっている可能性があります。

今後の東京都中古マンション市場を考える上では、「価格が上がっているか」だけではなく、「誰が買えているのか」「どの価格帯が売れ残り始めているのか」を見ることが、これまで以上に重要になっていくでしょう。

筆者プロフィール

福嶋真司氏のポートレート

福嶋 真司氏
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者
福嶋総研 代表研究員

早稲田大学理工学部を卒業後、大手不動産会社にてマーケティング調査を担当。その後、建築設計事務所にて法務・労務を担当しました。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行っています。また、大手メディアや学術機関等にもデータ及び分析結果を提供しています。

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