開放量子系における20年来の未解決問題が解決:量子緩和速度の普遍的な上限を証明

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開放量子系における20年来の未解決問題が解決:量子緩和速度の普遍的な上限を証明

芝浦工業大学システム理工学部の木村元教授らの研究グループは、開放量子系における緩和速度の普遍的な上限を理論的に証明しました。この成果は、量子力学の基礎理論に残されていた20年来の未解決問題に解答を与え、量子コンピュータなどの次世代量子情報技術の発展に重要な光を当てることが期待されています。

開放量子系の「完全正値性」とは

原子や素粒子の振る舞いを理解するための基礎理論である量子力学では、「シュレーディンガー方程式」が基本方程式として知られています。しかし、周囲の環境(熱浴など)との相互作用を考慮する「開放量子系」では、いまだ多くの未解決の課題が残されていました。

その一つが、「完全正値性」と呼ばれる性質の普遍性です。この性質は、量子系の時間発展が物理的に妥当であるための条件であり、その必要性については長らく議論があり、実験的な検証もこれまで試みられてきました。特に、量子ビット系と呼ばれる比較的単純な量子系においては、2002年に木村教授自身がこの性質の検証可能性を初めて示しました。しかし、「より一般的な量子系においても完全正値性が成立するのか」という問題は、20年以上にわたり未解決のままでした。

緩和速度の普遍則を理論的に証明

今回の研究では、あらゆる開放量子系におけるマルコフ過程の緩和速度が、ある普遍的な法則に従うことが理論的に示されました。研究グループは、すべての開放量子系において、緩和速度がある上限に制限されることを示し、この理論的枠組みを実験的に検証可能な形で提供しました。

具体的には、量子チャネルが示す緩和速度の最大値が、ヒルベルト空間の次元で割った緩和速度の総和により上から制限されるという予想を厳密に証明しました。この証明には、古典力学のダイナミクス解析におけるリャプノフ指数の理論が応用され、量子チャネルの進化を詳細に解析することで実現しました。

量子システムにおける完全な正定性をテーマにした科学的な画像です。原子モデルが描かれ、緩和時間と限界を示すグラフが重ねられており、背景には宇宙のような抽象的な空間が広がっています。

この成果により、今後この法則に反する実験結果が得られた場合、それが完全正値性の破れによるものか、あるいはマルコフ性の破れによるものかを判定する手がかりが得られるようになります。

なお、本研究は完全正値性を一般化した枠組みにおけるさらなる普遍則の解明へと発展しており、英国物理学会(Institute of Physics)が発行する国際的な物理学誌 Physics World の「Research Highlight」として紹介されています。

Physics World: The secret limits governing quantum relaxation

量子技術の未来への貢献

今回の研究成果は、量子情報処理や量子通信における基盤技術の開発に貢献することが期待されています。量子コンピュータをはじめとする量子技術の実現においては、量子性の喪失(デコヒーレンス)が最大の課題となっていますが、本成果はあらゆるデバイスを用いた場合でも、その喪失時間を評価する手法として応用可能です。

研究グループは、今後、実験的な検証を通じてさらなる応用可能性を探り、量子技術の発展を加速させることを目指しています。また、量子力学の理論的限界を含む、量子物理学の理解をさらに深める研究を継続していくとのことです。

論文情報と研究グループ

本研究に関する詳細は、「Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical」誌(Volume 58, Number 4)に掲載されています。

Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical (オープンアクセス)

研究グループ(著者)

  • ヘルシンキ大学(フィンランド) Paolo Muratore-Ginanneschi

  • 芝浦工業大学 システム理工学部 機械制御システム学科 木村 元

  • ニコラウス・コペルニクス大学(ポーランド) Dariusz Chruściński

芝浦工業大学について

芝浦工業大学は、工学部、システム理工学部、デザイン工学部、建築学部、大学院理工学研究科を有する理工系大学です。理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約1万人の学生と約300人の専任教員が所属しています。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。

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