じゃらんリサーチセンターと熱海市、AIエージェント活用で観光DXを実証しインバウンド来訪者数約2倍を達成
株式会社リクルートが運営する観光に関する調査・研究機関『じゃらんリサーチセンター(JRC)』は、静岡県熱海市をフィールドに、地域の持続可能な観光地経営を目指した「AIエージェント」の実装に関する実証事業を行いました。この事業は観光庁の「観光DX推進による地域活性化モデル実証事業」の一環として、熱海市役所、熱海観光局、JRCの協業によって実行されたものです。
この実証事業の結果、限られた人材体制の中でもインバウンド強化に向けた施策を効果的かつ効率的に推進できることが確認され、対象国からの来訪者数は前年比で約2倍に増加するなど、具体的な成果が得られました。
実証の背景と目的
熱海市は温泉や海、美しい自然景観、海の幸やスイーツなど豊富な観光資源を持つ国内有数の観光地です。年間約300万人が宿泊する一方で、インバウンドの延べ宿泊客数は全体の約5%にとどまっており、特に平日を中心とした宿泊需要の創出や消費額の向上が課題となっていました。
熱海市ではインバウンド誘客強化を進めてきましたが、観光データの収集範囲の限界や体系的な整理・活用不足、さらに現状分析から施策実行、振り返りといった一連の業務に十分な人的リソースを割くことが難しいという課題を抱えていました。
JRCは、昨年度に実施した生成AI活用に関する研究(https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/02/Release_JRC-GenerativeAI2025.pdf)で得られた知見を基に、これらの課題に対応。単なる業務効率化に留まらず、「市・DMO」「旅行者」「観光事業者」の3者がAIを介して有機的に連動する循環サイクルを構築し、AIエージェントの実装が持続可能な観光地域経営に寄与するかを検証しました。また、本実証を通じて得られた知見を基に、同様の課題を抱える他地域への実践可能なモデルを提示することも目的としています。
AIエージェントを活用した実証の具体的な内容
本実証では、分析・検知・情報生成・共有といった業務プロセスをAIで連鎖させる「AIエージェント」の実装が検証されました。

具体的には、以下のツールが構築・連携されました。
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AIダッシュボードおよびAI検知アラート: 観光統計データやWeb行動データ、口コミ、問い合わせ情報などを横断的に活用し、重要指標や施策の変化を把握。変化の兆しを自動で通知することで、市・DMOが能動的に確認することなく、優先的に対応すべき課題や次の打ち手を把握できる運用を実現しました。
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AI多言語ツール: AIダッシュボードによる分析結果を基に、インバウンド旅行者の関心や行動特性に即した発信内容を整理し、AIによるダブルチェックを通じて品質を担保しながら多言語化するツールです。
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AIレポート作成ツール: 観光案内所のデータと現場の気づきを統合したレポートを自動生成するツールです。
これらのアウトプットは、熱海市の公式観光サイトやQRコードリストを通じて、旅行者への情報提供や観光事業者の接客・施策立案支援に活用されました。また、本実証では、人が行ってきた業務を明文化・型化した上でAIに任せるという、アナログな業務整理や小規模な検証を重ねながら段階的にAIを組み込む導入プロセスが重視されました。
実証による具体的な成果
市・DMO:分析業務の工数を最大90分の1に削減
AIダッシュボードおよびAI検知アラートの活用により、市・DMOでは従来人手で行っていたデータの抽出・分析・整理といった作業が大幅に削減されました。観光統計データやWeb行動データ、口コミ情報などを横断的に分析し、重要指標と施策振り返り指標を一体的に把握できる仕組みを構築したことで、分析業務にかかる工数は最大で90分の1に削減され、複数の施策を同時並行で検証することが可能となりました。また、変化の兆しはアラートとして自動通知されるため、担当者が常にダッシュボードを確認しなくても、優先的に対応すべき課題や次の打ち手を把握しやすくなり、創出された時間を施策実行や事業者との対話、戦略検討に充てられるようになりました。
旅行者:検索表示回数15.3倍、来訪者数は前年比約2倍
旅行者向けには、AIダッシュボードで得られた分析結果を基に、検索ニーズや行動データに即した多言語情報の生成・発信が行われました。単なる日本語コンテンツの翻訳ではなく、国・地域別の関心や旅マエ・旅ナカの行動特性を踏まえた情報を整備したことで、公式観光サイトへの流入が大きく拡大。その結果、Google検索における表示回数は15.3倍に増加し、平均掲載順位も大幅に向上しました。また、これらの情報をQRコードリストとして観光案内所や宿泊施設で活用することで、現地滞在中の情報接触も促進。こうした取り組みの積み重ねにより、インバウンド強化の対象国であるアメリカおよび台湾からの来訪者数は、前年比でおおむね約2倍に増加し、インバウンド強化に向けた具体的な成果が確認されました。
観光事業者:レポート作成時間を30分の1、接客工数は約3割削減
観光事業者向けには、観光案内所の来訪者データや問い合わせ内容、現場スタッフの気づきなどを統合し、AIが自動で要点を整理する「AIレポート作成ツール」が導入されました。これにより、従来は作成に時間を要していたレポートが短時間で生成可能となり、データを「読む資料」ではなく、「すぐに使える支援ツール」として共有できるようになりました。生成されたレポートは、観光協会や宿泊事業者、交通事業者など地域内の関係者間で共通言語として活用され、情報共有や認識のすり合わせを円滑にしています。あわせて、QRコードを活用した案内により、観光案内所における接客工数は約3割削減されるなど、現場業務の負担軽減と連携強化の両立が確認されました。
関係者のコメント
株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター 研究員 松本 百加里氏
「今回の実証で最も重要だと感じているのは、AIを導入したこと自体ではなく、『限られた人材でも、きちんとPDCAが回る状態を先につくれた』点です。インバウンドを強化したいという目的があっても、現場ではデータの整理や分析、振り返りに十分な時間を割けないという声は多く聞かれます。だからこそ本実証では、分析・検知・情報生成・共有といった業務をAIで連鎖させ、人が本来注力すべき施策検討や対話の時間を生み出すことを重視しました。また、本実証を通じて、AIエージェントを現場に定着させていく上では、業務プロセスを整理しながら小さな検証を重ね、段階的に活用を広げていくことの重要性も改めて認識しました。必ずしも最初から完成形を目指すのではなく、実際の運用を通じて改善を重ねていくことで、業務効率化とインバウンド来訪者数の増加を両立できたと捉えています。インバウンド強化や人手不足といった課題は、熱海市に限らず多くの観光地が直面しています。本実証で得られた、データを並走させながらサイクルを回していく考え方や、AIを業務に無理なく組み込んでいくプロセスは、同様の課題を抱える地域でも十分に応用可能です。JRCとしては、今後も各地域と伴走しながら、持続可能な観光地域経営の実装に向けた知見を蓄積・共有していきたいと考えています。」
熱海観光局
「膨大なデータの分析をAIに委ねることで、分析業務の負荷が軽減され、訪日外国人客の最新ニーズを地域全体でタイムリーに把握するとともに、受け入れ環境整備としても迅速に進められるようになりました。今回の実証において意義深かった点は、観光局にとどまらず、地域の宿泊施設や観光事業者様とも、鮮度の高い情報を『共通言語』として共有できたことです。その結果、地域一体となってデータを活用し、より人でしか表現できないおもてなしにフォーカスできたことは、一定の手応えを感じられる点です。AIが作成する『トレンド通信』や、現場で活用可能な『QRコードリスト』などを通じて、日々の運営や改善に役立てることができました。」

今後の展望
JRCは今後も各地域と連携し、持続可能な観光地域経営の実装に向けた知見を蓄積・共有していく方針です。本実証の取り組み詳細は、2026年3月下旬に観光庁サイトで動画と成果報告書として掲載される予定です。


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